国内旅行の定番として人気の高い秋の京都。今回は、映画化された七月隆文のベストセラー小説『ぼくは明日、昨日のきみとデートする』など、さまざまな作品の舞台としても注目を集める文化エリア、左京区にスポットを当ててご紹介します。
案内してくださるのは、マンガ家で真宗大谷派の僧侶というユニークな肩書きをお持ちの、みつざわひろあきさん。紅葉が美しい寺院や混雑しない穴場観光スポットを、歴史や「お念仏」にまつわる僧侶ならではの解説とともに巡ります。

浄土宗大本山・くろ谷 金戒光明寺: まだまだ穴場。美しい紅葉が山門を飾るお寺

浄土宗大本山・くろ谷 金戒光明寺(写真:水野克比古)

JR京都駅から市バスで30分ほどの「岡崎道」停留所から、徒歩10分。近年、紅葉スポットとしてメディアで取り上げられはじめた金戒光明寺ですが、嵐山や清水寺など定番の名所に比べれば、まだまだ穴場。秋になると山門の一帯を紅葉が美しく飾り、奥の庭園「紫雲の庭」をはじめ、境内にも紅葉の見どころが点在しています。

みつざわ:金戒光明寺は、法然上人が天台宗の大本山である比叡山を下りて、初めて草庵(仮の住まい)を結んだ地とされています。法然上人とは、浄土宗の開祖と仰がれた方で、平安時代末期から鎌倉時代を生きた人物です。

じつは、鎌倉時代の比叡山は世俗化していました。表向きには厳しい戒律を立てていても、僧たちは俗にまみれた生活を送っていたんです。法然上人はその現実を知り、自分の理想とのギャップを感じて、比叡山を下りました。比叡山から見ればはみ出しものですね。

画像: みつざわひろあきさん

みつざわひろあきさん

画像: 浄土宗大本山・くろ谷 金戒光明寺: まだまだ穴場。美しい紅葉が山門を飾るお寺

みつざわ:山を下りた法然上人は、この場所で民衆に向けて、「南無阿弥陀仏」と念仏さえ唱えれば誰もが平等に往生できる、という当時としては斬新な教えを説いていきました。この時代、仏教はまだ読み書きのできない民衆には縁遠いもの。念仏だけで救われるというのは、民衆にとって画期的な出来事でした。法然上人の教えを聞きたいと、みるみると人が集まり、やがてそれが道場となり、現在のようなお寺になっていきました。お寺の御堂が広いのも、それだけ多くの人から教えを知りたいという声が集まったからなんですよ。

画像: 広々とした御堂。境内も広大で、紅葉スポットが点在している。

広々とした御堂。境内も広大で、紅葉スポットが点在している。

みつざわ:法然上人は大変な苦労をされた方でした。幼い頃にお父さんが戦で亡くなったり、念仏が厳しい修行を否定するものと誤って解釈されたことで弾圧されたり……。ここは、ただご縁やご利益をもらうだけの場所ではなく、苦労の多い人生を歩んだ一人の人物に、対等な関係で出会うことができる場所だと私は考えています。先輩に相談事をするくらいの気持ちで、訪れてみてはいかがでしょうか。

写真:水野克比古

浄土宗大本山・くろ谷 金戒光明寺
拝観時間9:00〜16:00
住所〒606-8331京都府京都市左京区黒谷町121
webhttp://www.kurodani.jp/

法然院: 茅葺きの山門を持つ静寂の法然院で、紅葉を楽しむ

画像: 法然院(写真提供:法然院)

法然院(写真提供:法然院)

金戒光明寺からタクシーで10分ほど。大文字山のふもとあるのが、法然院です。秋には、趣のある茅葺きの山門付近を鮮やかな紅葉が彩るこの場所も、法然上人ゆかりの地。阿弥陀三尊を象徴する三尊石が中央に配置された方丈庭園があり、清泉「善気水」が絶えることなく湧き出ています。忙しい日常から離れて、心静かに過ごせるでしょう。

みつざわ:豊かな自然に囲まれ、とても静かなこの法然院ですが、じつはかつて「承元の法難」という少しスキャンダラスな事件が起きた場所でもあります。鎌倉時代の初めに、僧侶と民衆で唱和する会が行われた際、法然の弟子であった僧侶の念仏に感銘を受け、後鳥羽上皇に仕えていた2人の女性がその場で出家してしまうという事件があったんです。勝手に出家してしまうとは何事だ、と上皇は激怒。僧侶を大量に処罰し、会を開いていた僧侶は打首に。法然上人は讃岐国へ流罪となったほか、浄土真宗の開祖である親鸞らもそれぞれ流罪となりました。

画像: 法然院: 茅葺きの山門を持つ静寂の法然院で、紅葉を楽しむ

みつざわ:法然院の静けさは、俗世間を離れて、自分と向き合う機会を与えてくれます。世間の目を離れた場所であるということは、世間の価値観、たとえば損得の感情からも離れているということ。お金を使って欲しいものを手に入れる、欲を満たすために行動する、というのは、俗世間すなわち「娑婆」の考え方。仏教には、「すべてのことは、起こるべくして起こっている」という教えがあり、欲望にもとづいた行動は悪とされます。一度、日々の自分についてゆっくり振り返ってみてはいかがでしょうか?

法然院
拝観時間6:00〜16:00
住所〒606-8422 京都府京都市左京区鹿ヶ谷御所ノ段町30番地
webhttp://www.honen-in.jp/

北白川の子安観世音: 道中に現れる、高さ約2メートルの巨大な石仏

画像: 北白川の子安観世音

北白川の子安観世音

法然院を出てから、紅葉の定番スポットとして知られる哲学の道を北上し、今出川通沿いを西に徒歩約20分。今出川通と志賀越道が斜めに交差する角には、子安観世音があります。道路の脇に突如として現れる、高さ約2メートルを誇るその存在感は圧倒的。秋の散歩にオススメです。

みつざわ:鎌倉時代中期ごろにつくられたもので、通称「子安観世音」と呼ばれる石造・阿弥陀如来座像です。近所の方々にとって、安産祈願の石仏として親しまれています。また、この場所は交通の要所であった旧・白川村(現・北白川仕伏町)の入り口付近であることから、かつてはたくさんの旅人を守っていたのかもしれませんね。

子安観世音
住所京都市左京区北白川西町

浄土宗大本山 百萬遍知恩寺: 長さ100メートルの数珠と350店のフリーマーケットでにぎわう「百萬遍さん」

画像: 浄土宗大本山 百萬遍知恩寺(写真提供:浄土宗大本山百萬遍知恩寺)

浄土宗大本山 百萬遍知恩寺(写真提供:浄土宗大本山百萬遍知恩寺)

子安観世音に手を合わせた後、そのまま今出川通を10分ほど歩くと、京都大学の校舎エリアの向かいに見えてくるのが百萬遍知恩寺。「百萬遍」とは、元弘元年(1331年)に都に疫病が蔓延した際、「七日七夜・百萬遍」にわたって念仏を唱えたところ、疫病が治まったことから名づけられた号。地元の方々からは「百萬遍さん」として親しまれており、このあたりの地域が「百万遍」と呼ばれているのも、このお寺が由来です。一歩門をくぐると、18本の大きな松の木が植えられた広い境内が現れ、一気に開放感が生まれます。

みつざわ:ここは法然上人が43歳の頃に過ごした場所。若々しい顔つきをしたご尊像が置かれています。どのようにして仏教を伝えていくか。法然上人が感じたこと、学んだことをアウトプットし、実践していった場所です。

普通、お寺には僧侶でないとお務めできない場所や、入れないところがあります。これは「内人」「外人」という区別からくるもので、僧侶は仏様に近いということを暗に意味しているのですが、ここ百万遍知恩寺は、僧侶と僧侶でない人が同じ場所に立つということに重きを置いています。

画像: 写真提供:浄土宗大本山 百萬遍知恩寺

写真提供:浄土宗大本山 百萬遍知恩寺

画像: 浄土宗大本山 百萬遍知恩寺: 長さ100メートルの数珠と350店のフリーマーケットでにぎわう「百萬遍さん」

みつざわ:一般に門戸を開くという姿勢の現れとして、毎月15日(8月のみ25日)に『百萬遍大念珠繰り』というイベントが行われています。これは、僧侶も一般人もみんなで輪になって、巨大な念珠(数珠)を回すというもの。長さにして100メートル、重さ320キロ、珠の数1,080個にもおよぶ大きな念珠をみんなで回す光景は、ほかではなかなか見ることができないでしょう。『百萬遍大念珠繰り』に合わせて、境内では約350もの店が出店する手作りフリーマーケットも開催され、多くの人が集まります。

また、同時に開かれる写経会に申し込んだ方のみ、一般公開されていない方丈庭園を特別に観ることができます。枯山水の庭園を鮮やかに彩る紅葉はとても美しく、一見の価値有りです。ぜひ、スケジュールを合わせて予約してみてくださいね。

画像: 大方丈から臨む方丈庭園。秋には樹々が鮮やかに染まる。

大方丈から臨む方丈庭園。秋には樹々が鮮やかに染まる。

浄土宗大本山 百萬遍知恩寺
拝観時間9:00〜16:30
住所〒606-8225京都府京都市左京区田中門前町103
webhttp://hyakusan.jp/

みつざわひろあき

1989年新潟県長岡市生まれ。真宗大谷派僧侶 / 漫画家。『フリースタイルな僧侶たち』のフリーペーパーにて漫画『お坊さん日和。』を連載中。仏教を「表現」することを目的とし、関西を中心に漫画発表・ニガオエ・ライブペイント・法話・お参りなど活動中。

小倉千明

岡山県出身。ライター兼PR。広告代理店にて営業・取材業務に従事。リゾートホテル会社の広報部を経て、現在に至る。「暮らし」をテーマに、不動産・カルチャー・旅などからのアプローチをおこなう。美味しいご飯と音楽、サードプレイスを愛しています。

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※2019年9月12日に一部内容を更新しました。

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