秋田県仙北郡にある美郷町(みさとちょう)で2021年3月から、食を通じてJALとコラボレーションするという新たな試みが始まりました。地元の食材を使うのはもちろん、JALならではのオリジナルメニューとご当地グルメの数々が誕生。開発ストーリーに触れながら、美郷町の魅力や提供される新作料理を紹介します。

文:中山秀明

自治体所有の温泉施設や道の駅などで提供する料理の提案と監修を、JALが初めて実施

画像: 自治体所有の温泉施設や道の駅などで提供する料理の提案と監修を、JALが初めて実施

南北に広がる秋田県。その南東部に位置するのが美郷町です。東には奥羽山脈が連なり、西には仙北平野。澄んだ空気と清らかな水に恵まれた、まさに美しい郷です。

JALとコラボレーションすることになったのは、2013年に締結した連携協定がきっかけ。こちらはJALにとって初めての自治体との連携協定でしたが、今回、美郷町内の観光施設などを指定管理する第三セクターの「あきた美郷づくり株式会社」と初めて食のコラボレーションを試みます。

目玉となるのが、美郷町ならではの新メニュー。JAL国際線ファーストクラスの機内食を監修するコーポレートシェフの堀内陽彦(はるひこ)さんが、コースと定食の料理を新たに開発しました。また、美郷町の飲食施設で腕を振るう料理人が新たに開発したご当地グルメを、同じく堀内シェフが監修して磨き上げるというものです。

画像: 堀内陽彦シェフは和食の名門「吉兆」などを経てJALへ。現在、機内食を作る「ジャルロイヤルケータリング」に所属し、海外から出発する便の機内食を提供する現地企業に対しての調理指導やメニュー監修も行っています

堀内陽彦シェフは和食の名門「吉兆」などを経てJALへ。現在、機内食を作る「ジャルロイヤルケータリング」に所属し、海外から出発する便の機内食を提供する現地企業に対しての調理指導やメニュー監修も行っています

清流に育まれた野菜や高品質で個性豊かな調味料が魅力

料理監修の計画が始まったのは、2020年の夏。その後12月に堀内シェフが美郷町を実際に訪れ、新メニューが提供される各施設を巡るとともに料理人と意見交換をするなど、現地調査を行いました。

堀内シェフが注目したのは、清くやわらかな水のおいしさと、その水に育まれる野菜の味わい。さらに調味料や漬け物をはじめとする、伝統食材の豊かさです。水のおいしさについては、シェフの故郷と似ているとも。

「私の出身である西宮は灘五郷といって、日本三大酒処に挙げられる名水の地なのですが、美郷町も素晴らしいですね。とにかくお水も日本酒も非常においしい。また、秋田県自体が比内地鶏、あきたこまち、稲庭うどんなど全国的に知られる美食の宝庫ですから、やはりそれは豊かな自然環境があるからでしょう。美郷町は各農家でいぶりがっこを作るほど自家製の文化が盛んですし、醤油や味噌の蔵元さんも高品質で個性のある調味料を作っています。コースであればこれら郷土の恵みに季節感を盛り込み、美郷町の四季を料理で表現したいですね」(堀内シェフ)

堀内シェフは、現地の味付けの嗜好についても言及。醤油に関しては、九州醤油の特徴である甘みを感じたと言います。

「濃口だけでなく、淡口醤油にも甘いタイプがあって、興味深かったです。また、醤油に限らず、現地の料理は比較的濃い味付けだと感じました。味の濃さは青森など東北全般の特徴とも言われますが、今回のメニューは県外のお客様にもアプローチしていきますので、バランスをどう調整するかがポイントだと思います」(堀内シェフ)

よりおいしくするためにシェフと地元料理人がタッグで磨き上げ

堀内シェフに手ほどきを受けた地元の料理人は、「あきた美郷づくり株式会社」の飲食事業部の5人。特に責任者である竹沢勝好 飲食事業部長と、高橋龍太 調理係長が中心となり、堀内シェフと意見を交わしながらメニュー開発にあたりました。

画像: 竹沢勝好 飲食事業部長(左)と、高橋龍太 調理係長(右)

竹沢勝好 飲食事業部長(左)と、高橋龍太 調理係長(右)

開発時には、試食しながらの意見交換も。試作した料理を堀内シェフがチェックして、改善案などを反映することで料理を磨き上げていきます。例えば、新たなご当地メニューとして開発中の「美郷ラーメン」では、タレやチャーシューを中心に改善案が出されました。

画像: 開発中の「美郷ラーメン」

開発中の「美郷ラーメン」

「スープは乾物のみで、あえて動物系の素材は使っていません。タレは美郷町の『照井味噌醤油醸造元』の淡口醤油をベースに、濃口醤油としょっつる(ハタハタをメインに使う秋田名産の魚醤)、酒、みりん、塩、酢で調味し、煮干しオイルで香りをつけました。チャーシューは『後三年合戦』の『雁(がん)行の乱れ』にちなんで、鴨肉を低温調理にしたあとバーナーで炙っています。また、秋田県南ラーメンの特徴である焼き麩もトッピングしました」(高橋係長)

画像1: よりおいしくするためにシェフと地元料理人がタッグで磨き上げ

スープに動物系の素材を使わない理由は、美郷町の六郷高校前にかつて存在した「藤岡食堂」の名作「美郷たぬ中(たぬき中華)」という、動物系素材を使わない日本そばベースのラーメンをオマージュしているから。また、「雁行の乱れ」というのは、平安時代に横手市と美郷町を舞台に繰り広げられた「後三年合戦」のエピソードとして語られる逸話です。

画像2: よりおいしくするためにシェフと地元料理人がタッグで磨き上げ

「あえて指摘させていただくと、甘さが気になります。みりんを減らすといいのかもしれませんが、それだけではないのかも。また、鴨は炙ることで、低温調理によるレアな肉のビジュアルが損なわれてしまうと思います。ここは炙らず、2枚を1枚に減らしてもいいので、もっと大判になるようにカットしませんか? そのほうが見栄えもいいと思いますし、インパクトが出ると思います」(堀内シェフ)

「甘さは私も感じました。煮干しオイルから独自の甘みが出ているのかもしれないので、バランスをみながら調整したいと思います」(高橋係長)

「醤油も甘さに影響しているのかもしれません。ただ、『美郷たぬ中』にも使われている照井さんの醤油があってこその『美郷ラーメン』ですから変更せず、塩の割合を多くして濃さを補うなど、再調整してみます」(竹沢部長)

また、食後のスイーツとして提供予定の「豆乳パンナコッタ ~イチゴソース~」では、テクスチャーとトッピングがブラッシュアップの焦点に。

画像3: よりおいしくするためにシェフと地元料理人がタッグで磨き上げ

「豆乳に生クリームを入れて、一般的なゼラチンではなく寒天を使ってゆるめに仕上げました。イチゴは砂糖と水で煮ています。こちらは地元の農家さんにイチゴを出荷いただける予定なので、いっそう郷土色を出したいですね」(高橋係長)

画像4: よりおいしくするためにシェフと地元料理人がタッグで磨き上げ

「イチゴは甘すぎなくて、全体のバランスとしてもいいと思います。気になったのは生地の硬さですね。寒天は水ようかんなど、和菓子でもよく使いますからすごくいいアイデアなんですけど、もっとゆるくできるはずなので。あとはあしらいにハーブをのせたいですね。ミントもいいんですけど香りが強いので、このサイズならセルフィーユがいいと思います」(堀内シェフ)

美郷町の恵みと四季の彩りにあふれた豪華なコースが完成

2021年3月に堀内シェフが再び美郷町を訪れ、コースや定食メニューの調理指導などが行われました。シェフが考案したレシピを、竹沢部長と高橋係長が中心になって再現し、レシピではうまく伝わらなかった部分を堀内シェフが調整していきます。

画像1: 美郷町の恵みと四季の彩りにあふれた豪華なコースが完成

「例えば盛り付けですよね。四季を表現する和食は盛り付けも大切な要素。実際に提供する器に合わせて、盛り付けを変更した点はいくつもあります。細かいところですと、桜の花を表現した酢漬けの向きなど。JAL監修として提供するのであれば、そういった部分も追求して、お客様に楽しんでいただきたいと思うんです」(堀内シェフ)

画像: コースの前菜となる八寸

コースの前菜となる八寸

国内外で活躍する堀内シェフの料理は、非常に勉強になったと竹沢部長。事前に送られてきたレシピだけではよくわからなかった部分も、直接聞くことで納得できる点がたくさんあったと言います。

「火加減や調理時間などを工夫することで、素材の良さを想像以上に活かせるということをあらためて学ばせていただきました。組み合わせでも目からうろこの発想がいくつもありましたね。例えばローストビーフ。ホースラディッシュ(西洋わさび)の代わりにおからを添えるというのは和食ならではのプレゼンテーションですし、ソースもあえて和風のあんになっていたんですけど、これが相性抜群で。料理は実に奥が深いです」(竹沢部長)

画像2: 美郷町の恵みと四季の彩りにあふれた豪華なコースが完成

そうして試作が完成したコースは、美郷町の恵みと四季の彩りにあふれた豪華な内容に。いぶりがっことポテトサラダをパンで挟んでキャビアをのせた先付に始まり、お造り、魚、肉料理とご馳走が盛りだくさんの全9皿です。

画像: JAL機内食シェフ監修コース料理

JAL機内食シェフ監修コース料理

「一般的にじゅんさいは初夏や夏の食材ですが、名産地である秋田は一年中採れるそうで、冬はじゅんさい鍋も食べるんです。そういったことから、前菜の酢の物に使ってみました。醤油や味噌はバラエティが豊かでしたので、和風あんにはこの醤油、ぬたにはこの味噌といった形で使い分けています。魚料理にはサワラの西京漬焼きに、いぶりがっこのタルタルソースを添えました。西京漬焼きはそのままでも十分いけますけど、ソースを加えると秋田ならではの味わいになってさらにおいしいですよ」(堀内シェフ)

定食スタイルの新メニューとして、堀内シェフが「ハンバーグ、エビフライのいぶりがっこタルタル」「豚テキ(生姜焼き)」「鯖味噌煮、季節の野菜」「美郷酒粕汁」「美郷黒毛和牛まんまオムライス」の5品を提案。

機内食をイメージさせるプレゼンテーションで提供しようかと考案中。こういった盛り付けにすることで、よりJALが監修した料理であることを感じてもらえるのではないかと堀内シェフはいいます。

画像: 定食メニューセットのイメージ

定食メニューセットのイメージ

そのほか、前述のラーメン以外に美郷町の料理人が考案したご当地メニューも磨き上げました。「比内地鶏の親子丼」は火加減をやさしくすることでふわとろ食感に。卵黄をのせることでシズル感をアップ。

画像: 「比内地鶏の親子丼」

「比内地鶏の親子丼」

また、隣町のご当地グルメ「横手焼きそば」を美郷風に仕上げた「美郷焼きそば」は、鴨のひき肉を使う、納豆を添える、ソースに醤油をブレンドするなどがポイント。たまごも、「横手焼きそば」は目玉焼きですが、「美郷焼きそば」は温泉たまごで納豆とより絡むように考えられています。この温泉たまごは、堀内シェフのアイデアなのだとか。

画像: 「美郷焼きそば」

「美郷焼きそば」

これらの新メニュー開発を中心となって行った3人に、あらためて感想や意気込みなどを聞きました。

画像3: 美郷町の恵みと四季の彩りにあふれた豪華なコースが完成

「ここまで自治体にフォーカスして、また地域の方々と手を取り合ったメニュー開発は初めてだったので、私自身も刺激になりました。美郷町を訪れたのも初めてだったのですが、雄大な自然とあたたかい人々に触れられる素晴らしいまちです。これらの魅力に触れながら、ゆっくりお食事を楽しんでいただきたいですね」(堀内シェフ)

「この地で長年暮らしていますが、今回の取り組みであらためて土地の恵みとその活かし方に気付きました。美郷町を観光で訪れるお客さまはもちろんのこと、周辺地域の方々にもぜひ味わっていただき、私たちの想いが波及していったらうれしいですね」(竹沢部長)

「堀内シェフの技術や発想は、大変勉強になりました。美郷町は春夏秋冬で多彩な表情をみせますから、季節ごとの特徴を料理で表現できるよう、今後のメニュー開発に取り組んでいこうと思います」(高橋係長)

新メニューを味わえる提供施設はこちら!

今回の新メニューが提供されるのは、すべて美郷町内の施設。「JAL機内食シェフ監修コ-ス料理」は「千畑温泉 サン・アール」の夕食・宴会および「六郷温泉 あったか山」「湯とぴあ 雁の里温泉」「美郷町宿泊交流館 ワクアス」などの宿泊・温泉施設のほか「ニテコ名水庵」「道の駅 美郷」の宴会料理として登場します。

また、各種定食メニューと「美郷ラーメン」「比内地鶏の親子丼」「美郷焼きそば」は、「道の駅 美郷」での提供を中心に計画中です。

画像1: 新メニューを味わえる提供施設はこちら!

千畑温泉 サン・アール

住所秋田県仙北郡美郷町金沢東根字仏沢210-1
電話0187-84-3983
営業時間入浴 8:00~21:00
宿泊 チェックイン15:30/チェックアウト 10:00
定休⽇第3火曜
webhttp://akita-misato.com/stay/sanr/
画像2: 新メニューを味わえる提供施設はこちら!

六郷温泉 あったか山

住所秋田県仙北郡美郷町六郷東根字下馬転120
電話0187-84-2641
営業時間入浴 6:00~22:00 (12月〜3月は7:00~)
※2021年3月現在、源泉設備故障のため入浴はできません。
コテージ宿泊(ペット同伴可) チェックイン16:30/チェックアウト9:30
定休⽇第2、4水曜
webhttp://akita-misato.com/stay/attaka/
画像3: 新メニューを味わえる提供施設はこちら!

湯とぴあ 雁の里温泉

住所秋田県仙北郡美郷町飯詰字東西法寺181-2
電話0187-83-3210
営業時間入浴 8:30~21:00
定休⽇月曜
webhttp://akita-misato.com/stay/yutopia/
画像4: 新メニューを味わえる提供施設はこちら!

美郷町宿泊交流館 ワクアス

住所秋田県仙北郡美郷町飯詰字下鶴田22-1
電話0187-88-8870
営業時間スポーツ施設 9:00~21:00
宿泊 チェックイン15:00/チェックアウト10:00
定休⽇年中無休
webhttp://akita-misato.com/stay/wakuasu/
画像5: 新メニューを味わえる提供施設はこちら!

ニテコ名水庵

住所秋田県仙北郡美郷町六郷字大町59
電話0187-84-0062
営業時間11:00~15:00(15:00以降は要予約)
定休⽇木曜
webhttp://akita-misato.com/niteko/

その中の「道の駅美郷」は、2021年3月31日にリニューアルされる美郷町の新名所。ここでは、施設内にあるお米をテーマにした「釜飯食堂 みさとのごはん」で今回の一部のメニューが味わえます。

画像: 「道の駅 美郷」内にある「みさとのごはん」の入口

「道の駅 美郷」内にある「みさとのごはん」の入口

道の駅美郷

住所秋田県仙北郡美郷町金沢字下舘124
電話0187-37-3000
営業時間9:00~18:00(12月〜3月は17:00まで)
定休⽇元日
webhttp://akita-misato.com/gantaro/

四季で楽しむ、美郷町のおすすめ観光スポット

画像: 四季で楽しむ、美郷町のおすすめ観光スポット

美郷町は、おいしい料理だけでなく四季によってさまざまな魅力に触れられます。例えば、春は126カ所の清水巡り、夏はラベンダー園、秋は紅葉や温泉、冬は六郷カマクラ行事など、それぞれに見どころが盛りだくさん。

画像: 春は126カ所の清水巡り(写真は御台所清水)

春は126カ所の清水巡り(写真は御台所清水)

画像: 夏はラベンダー園

夏はラベンダー園

画像: 秋は紅葉や温泉(写真は千畑温泉 サン・アール)

秋は紅葉や温泉(写真は千畑温泉 サン・アール)

画像: 冬は六郷カマクラ行事(写真は天筆焼き)

冬は六郷カマクラ行事(写真は天筆焼き)

2021年4月1日から9月30日にかけて、テーマ別に東北6県の観光コンテンツをかけ合わせた「東北デスティネーションキャンペーン」〈 www.tohokukanko.jp/dc/ 〉が開催されます。秋田を旅する際にはぜひ美郷町に立ち寄って、この地域ならではの美食や風景を体験してください。

JALの舞台裏

A350導入の裏話や機内食のメニュー開発など、JALの仕事の舞台裏を紹介します。

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