また、にし阿波地区独特の急傾斜地農法「にし阿波の傾斜地農耕システム」は、2018年3月に「世界農業遺産」に認定。県内外から大きな注目を集めています。
今回は、日本の原風景を感じさせる「落合集落」や、奥祖谷(おくいや)地区の秘境・祖谷渓の注目スポット、藍の集散地として発展した昔の面影をいまに残す脇町の「うだつの町並み」など、にし阿波地域の魅力をご紹介します。
文:重藤貴志
秘境・平家の落人伝説が残る「落合集落」を訪ねる
落合集落
徳島県の祖谷地方は、平家の落人伝説や開拓伝承が残る日本三大秘境の一つとして知られています。そのなかでも、四国第二の高峰として知られる剣山より東にあり、東祖谷のほぼ中央に位置する山の南斜面にあるのが「落合集落」です。
集落内の最大高低差は約390メートル。谷を挟んだ中上集落に設けられた展望所からは、山肌にへばりつくようにして建てられた民家や先人の手によって開墾された田畑、独特の方法で積み上げられた石垣など、秘境の山里の全景を眺めることができます。
ここ落合集落を含む「にし阿波地域」が誇る「にし阿波の傾斜地農耕システム」は、中国・四国地方で初めて「世界農業遺産」に認定されました。「世界農業遺産」とは、世界的に重要と目される伝統的な農林水産業を営む地域をあらためて評価し、保全していくという、2011年に始まった制度です。
「にし阿波の傾斜地農耕システム」は、「コエグロ(茅を集めたもの)」で茅を干し、それを土と混ぜ合わせて土壌の流出を防止したり、伝統農具「サラエ(ムツゴ)」による独自の耕作技術を用いたりすることなどが特徴。先人から受け継いだ知識と技術により傾斜地で農耕を持続可能にしてきた点や、相互扶助をベースにした地域文化が高く評価されました。
そして、2005年に国の重要伝統的建造物群保存地区にも指定された落合集落の象徴が「長岡家住宅」です。1901年に建てられた支配階級の民家を2007年から2008年にかけて復元。現在は無料で一般公開しています。
屋根は茅葺屋根、外壁は土塗壁の上から「ヒシャギ竹」を貼りつけた独特の仕上げ。これは竹を火で炙ってから割り、平らに潰した丈夫な外壁材で、雨水や冬の寒さから土塗壁を保護する役割を持つそうです。
「長岡家住宅」は間取りの異なる6つの部屋で構成されている民家で、ほかの祖谷民家とは少し異なるめずらしい間取りなのだとか。2つの囲炉裏部屋のほか「タナ(書院)」や「トコ(床の間)」を備えた座敷があり、南向きの大きな縁側からは周囲の美しい山々を望むことができます。
落合集落 | ||
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web | : | https://miyoshi-tourism.jp/spot/ochiaishuraku/ |
住所 | : | 徳島県三好市東祖谷落合 |
悠久の年月が育んだ祖谷渓でダイナミックな自然を満喫
ひの字渓谷
祖谷渓を旅するとき、ぜひ体験してほしい絶景の一つが「ひの字渓谷」です。名前の由来は一目瞭然。急角度に蛇行するエメラルドグリーンの祖谷川が、平仮名の「ひ」のかたちに見えることからそう呼ばれるようになりました。
気が遠くなるほどの年月をかけて自然の力がつくりあげた渓谷美は圧巻。秋には全山が見事な紅葉に包まれ、ため息が出るような絶景を見せてくれます。
「ひの字渓谷」から車で約5分のところには、谷底まで約200メートルの断崖絶壁に立つ「小便小僧」の像があります。これは徳島県出身の彫刻家である河崎良行氏の作品。かつて周辺の子供たちや旅人がここで度胸試しをしていたという逸話にちなんでつくられたものですが、決して真似しないように。
ひの字渓谷 | ||
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web | : | https://miyoshi-tourism.jp/spot/iyakei-peeingboy/ |
住所 | : | 徳島県三好市西祖谷山村田ノ内 |
世界一長い観光用モノレールに乗って、奥祖谷の自然を全身で体感
奥祖谷観光周遊モノレール
奥祖谷の絶景を眺めるだけではなく、体感したい場合は、ひの字渓谷から車で約50分のところにある「奥祖谷観光周遊モノレール」に乗ってみてはいかがでしょう。
約4分ごとに発車する2人乗りの電動式モノレールが、約65分間かけて山中を巡っていきます。全長約4,600メートル、高低差約590メートル、最大傾斜度約40度、最頂標高約1,380メートル。じつはこれらすべての数値が観光用モノレールとしては世界一! 気軽に奥祖谷の大自然を満喫できる、奥祖谷の人気スポットです。
電動式モノレールは人が歩くくらいのスピードで、動作音も静か。のんびりと周りの景色を楽しむことができます。春はヤマシャクヤクの花、秋は紅葉と、季節ごとに表情が変わる奥祖谷の自然は見飽きることがありません。
休日ともなるとたくさんの人が訪れ、ときには午後の早いうちに乗車チケットが売り切れてしまうことも。確実に乗車したいなら、早めに訪れることをおすすめします。
奥祖谷観光周遊モノレール | ||
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運転時間 | : | 4月~9月 8:30~16:00、10月~11月 8:30~15:30 |
定休日 | : | 水曜(祝日の場合は運行)、12月~翌年3月冬季休業 |
住所 | : | 徳島県三好市東祖谷字菅生28 いやしの温泉郷敷地内 |
江戸時代から残る、美しい商家に注目。阿波藍の集散地を歩く
うだつの街並み
徳島県のほぼ中央、美馬市脇町南町にある「うだつの町並み」は、江戸時代以降の町家が数多く残された重要伝統的建造物群保存地区。ここは、吉野川中流域における阿波藍の集散地として繁栄した歴史があります。
本瓦葺き・大壁造りの重厚な構えの商家が連なる通りは、当時の雰囲気たっぷり。明かり取りの「虫籠窓(むしこまど)」や上下二枚の日除けである「蔀戸(しとみど)」など、昔ながらの美しい意匠の数々にも注目したいところ。時代劇のロケなどにもよく使われるそうです。
「うだつ(卯建)」とは、隣家との境界につくられた防火壁のこと。実際に取りつけるには相当の費用がかかるため、裕福な家しか設けられなかったといいます。
ここ脇町では、江戸時代に富を築いた藍商人たちが競って「うだつ」をつくり、他家に負けまいと装飾を施した結果、店の繁栄や社会的地位を誇示するシンボルとなりました。
「うだつが上がらない(出世しない、身分がパッとしない)」という言い方がありますが、この「うだつの町並み」に暮らす人々にとっては、無縁の言葉だったかもしれません。
藍の豪商として名を馳せた佐川屋直兵衛の屋敷「藍商佐直 吉田家住宅」をはじめ、1933年に建てられ、映画のロケ地にもなった徳島県唯一の木造芝居小屋「オデオン座」など、多くの見どころがある「うだつの町並み」。
夕暮れともなれば、家の軒先に設置された行灯風の街頭が通りを優しく照らし出します。昼間とはまた違った風情ある美しさを満喫してみてはいかがでしょうか。
うだつの町並み | ||
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web | : | https://www.awanavi.jp/feature/udatsu.html |
住所 | : | 徳島県美馬市脇町 |
徳島の郷土料理「そば米雑炊」をレトロなお茶屋で堪能
茶里庵
「うだつの町並み」でお腹が減ったら、徳島の郷土料理の一つ「そば米雑炊」が食べられるお店、お茶処「茶里庵」に訪れてみてはいかがでしょう。
「藍商佐直 吉田家住宅」の正面にあり、大正時代に建てられた商家を改築したお店の軒先には藍染の暖簾、左側には「うだつ名物 そば米雑炊」と白く染め抜かれた大きな布が掲げられています。
険しい山々に囲まれ、稲作が困難だった祖谷地方では、そばが主食として栽培されていました。収穫したそばの実を茹でてから乾燥させ、皮を取り除いたものが「そば米」。これをだし汁で肉や野菜と一緒に煮た郷土料理が「そば米雑炊」です。
平家の落人たちが都を偲んでつくったのが始まりという説もあるとか。いまでは徳島県全域で家庭料理として食べられるようになりました。「茶里庵」では冷奴、漬物、デザートつきのセットとして提供されており、海外からの観光客の方々からも好評を博しています。
徳島の地鶏「阿波尾鶏」と干し海老、干し椎茸などで丹念に取っただし汁に、そばの実と人参、牛蒡を加えてじっくり煮込んだ「そば米雑炊」は、ほっとする優しい味わい。プチプチとしたそばの実の食感が、口中に独特のリズムを生み出します。
「茶里庵」オリジナルの工夫として焼き餅を入れており、ボリューム満点の食べごたえある一品に。そのほか、きな粉餅や水羊羹などの甘味も食べられるので、一休みするために立ち寄ってみてはいかがでしょうか。「にし阿波」地域の旅の思い出が、いっそう充実したものになるはずです。
お茶処 茶里庵 | ||
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営業時間 | : | 10:00~17:00 |
定休日 | : | 不定休 |
住所 | : | 徳島県美馬市脇町大字脇町132-5 脇町うだつ通り |
自然の絶景と歴史ある町並みの両方を堪能することができる「にし阿波」地域。落合集落やひの字渓谷がある奥祖谷の雰囲気は、まさに秘境と呼ぶにふさわしいもの。平家の落人伝説が残るのも頷けます。そして、本瓦葺・大壁造の重厚な構えの商家が連なるうだつの町並みを歩けば、まるでタイムスリップしたような気分に。古民家を改装したカフェやゲストハウスもあります。ゆっくり自分のペースで旅を楽しんでみてください。
重藤貴志(しげとう たかし)
東京出身・徳島在住のインタビュアー / ライター / コピーライター。屋号は「Signature」。グラフィックデザインやイラストレーションを軸に幅広い分野で執筆。主な仕事に誠文堂新光社『デザインノート』『イラストノート』シリーズ、玄光社『創作人』シリーズなど。全国各地からの依頼を受けて取材をする合間に、読書や料理、散歩や焚き火を楽しむ日々。
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