2015年に世界遺産に登録された「明治日本の産業革命遺産」。九州と山口県を中心に広がる23の構成資産からなる文化遺産の中から萩を中心に魅力を紹介します。

世界遺産、明治日本の産業革命遺産 製鉄・製鋼、造船、石炭産業
登録年:2015年
世界遺産の種類:文化遺産
登録基準:●ある期間、あるいは世界のある文化圏において、建築物、技術、記念碑、都市計画、景観設計の発展における人類の価値の重要な交流を示していること。●人類の歴史の重要な段階を物語る建築様式、あるいは建築的または技術的な集合体または景観に関する優れた見本であること。
アクセス/構成資産のひとつである萩城下町へは、山口宇部空港より約71.9km、車で約1時間13分

日本の産業国家化を物語る23の文化遺産

2015年に世界文化遺産に登録された「明治日本の産業革命遺産 製鉄・製鋼、造船、石炭産業(以下:明治日本の産業革命遺産)」。世界遺産としては国内19番目(文化遺産としては15番目)となるこの世界遺産は、西洋で始まった産業革命の波が初めて非西洋へと及んだことを証明する数々の産業遺産によって構成されています。

「明治日本の産業革命遺産」の構成資産となるのは、山口県、福岡県、佐賀県、長崎県、熊本県、鹿児島県、岩手県、静岡県の8県11市に点在する23の産業遺産です。日本は、19世紀後半〜20世紀初頭にかけての工業立国としての土台を築きましたが、これらの産業遺産は、製鉄や製鋼、造船、石炭産業などの重工業を通じて、日本が「ものづくり大国」となっていくことに貢献した場所。広範囲に分散する複数の構成資産は、日本の急速な産業国家化を時系列に沿って物語ることから「シリアルノミネーション」(複数の資産をひとつのテーマにおける一連の資産郡として一括推薦すること)を通じて世界意文化遺産に登録されています。

幕末の長州藩を舞台に行われた産業近代化への挑戦

画像: 幕末の長州藩を舞台に行われた産業近代化への挑戦

全国に点在する23の構成資産からなる「明治日本の産業革命遺産」ですが、その多くは九州地方や山口県に点在しています。なかでも山口県の萩市には、5つの構成資産が集中。「明治日本の産業革命遺産」を効率的に楽しみたい!」という方にとっておすすめのエリアとなっています。

萩は、古くから長州藩の本拠地として栄えたことで知られる町。明治維新の中心となり、明治時代以降多くの政治家を輩出した長州藩は、近代日本の礎を築く上で大きな役割を果たしてきました。産業の近代化にも意欲的だった長州藩の人々は、西洋技術を学びながら試行錯誤を繰り返し、「ものづくり」に挑戦したことでも知られています。

そんな産業化への歴史を象徴する構成資産のひとつが「萩反射炉」。反射炉とは、西洋式の鉄製大砲の鋳造に必要な金属溶解炉で、長州藩が海防強化の一環として導入を試み、1856年に試作的に築いたもの。現在も、高さ約10.5mの煙突部分が残されており、静岡県の「韮山反射炉」、鹿児島県の「旧集成館」とともに反射炉の遺構が残される貴重な場所として知られています。

画像: 萩反射炉

萩反射炉

また、萩反射炉の近くにある「恵美須ヶ鼻造船所跡」も、1856年に長州藩によって設けられた造船所。幕末に建設された帆船の造船所で、唯一遺構が確認できる構成資産です。ここで2隻の西洋式帆船が建造されました。さらに、「大板山たたら製鉄遺跡」は、伝統的なたたら製鉄の遺跡で、この地で生産された鉄は、「恵美須ヶ鼻造船所跡」で建造された1隻目の西洋式帆船「丙辰丸」を建造する際に用いられました。在来技術を利用し、西洋技術を実現化する。時代の過渡期に行われた試行錯誤を証明する構成資産といえるでしょう。

画像: 恵美須ヶ鼻造船所跡

恵美須ヶ鼻造船所跡

「萩反射炉」、「恵美須ヶ鼻造船所跡」、「大板山たたら製鉄遺跡」。これら3つの構成資産を回れば、“鉄”をキーワードに産業の近代化に取り組んだ長州藩の足跡を感じられるのではないでしょうか。

画像: 大板山たたら製鉄遺跡

大板山たたら製鉄遺跡

日本の近代化を支えた美しき城下町へ

画像: 日本の近代化を支えた美しき城下町へ

「萩反射炉」、「恵美須ヶ鼻造船所跡」、「大板山たたら製鉄遺跡」を通じて、日本の産業化への取り組みにふれた後は、日本の近代化に大きな役割を果たした長州藩の中心拠点となった「萩城下町」を歩いてみてはいかがでしょうか?

画像: 萩城下町 菊屋横町

萩城下町 菊屋横町

「明治日本の産業革命遺産」の構成資産のひとつに数えられる「萩城下町」とは、1604年に毛利家の居城として指月山麓に築城された萩城を中心に、形成された武家屋敷や商家の町並みがある一帯を指します。世界遺産に登録されているのは「城跡」、「旧上級武家地」、「旧町人地」の3地区。白壁やなまこ壁、黒板塀が織りなす美しい城下町は、江戸時代の面影を今に伝える貴重な場所として保存されています。

画像: 江戸屋横丁

江戸屋横丁

世界遺産散策を楽しむなら、まずは長州藩の人材育成の中心地となった「藩校明倫館」の跡地にある「萩・明倫学舎(世界遺産ビジターセンター)」へ。国の登録有形文化財である本館には「藩校明倫館」の歴史にふれられる「萩藩校明倫館展示室」や世界遺産関連や観光の資料などが豊富に揃う「萩まちじゅう博物館 観光インフォメーションセンター」などの見どころが。また、2号館には「世界遺産ビジターセンター」や「幕末ミュージアム」などが備えられています。街歩きの始まりに「萩・明倫学舎(世界遺産ビジターセンター)」を訪れておけば、世界遺産への理解がより一層深くなるでしょう。さらにその後は、「城跡」や「旧上級武家地」や「旧町人地」へ。高杉晋作や伊藤博文が勉学に励んだ「円政寺」や桂小五郎の名で知られる「木戸孝允旧宅」、約400年の歴史を誇る商家「菊屋家住宅」など、美しい城下町に点在する数々の見どころをめぐれば、江戸時代にタイムスリップしたような感覚を味わえるはず。「萩城下町」には、古民家を改装したカフェや土産物店なども点在しているので、心ゆくまで街歩きを楽しんでください。

さらに、歴史ファンなら見逃せないのが幕末期に吉田松陰が主宰した私塾「松下村塾」です。世界遺産の構成資産のひとつにも登録されるこの場所は、久坂玄瑞や高杉晋作、伊藤博文、山県有朋など、明治維新の立役者となった多数の人材を輩出したことで知られています。木造平屋建ての小さな建物は現在でも保存されており、その外観を見学することが可能。工学教育の重要性をいち早く提唱し、自力で産業近代化の実現をはかろうと説いた松陰の教えを受け継ぎ、日本の産業化を推し進めた長州藩の人々の思想を育んだ学び舎には、今も静謐な空気が漂っています。

画像: 松下村塾

松下村塾

画像: 松下村塾の室内

松下村塾の室内

長州藩の中心地として発展した萩には、世界遺産の構成資産となる5つのスポットのほかにも、幕末の志士ゆかりの場所や歴史ある寺社仏閣などが数多く点在しています。明治維新から150年の節目を迎える今だからこそ、日本の歴史に大きな影響を与えたこの町を、ゆっくりと旅してみてはいかがでしょうか。

画像: 世界遺産、明治日本の産業革命遺産 製鉄・製鋼、造船、石炭産業

旅ライター/吉原徹

萩には、「明治日本の産業革命遺産」を構成する5つの歴史遺産が点在しています。世界遺産観光を効率的に楽しむなら、レンタカーはもちろん「萩市内循環バス」や「レンタサイクル」、「観光タクシー」、「観光バス」といった交通手段を利用するのもおすすめです!

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