文化による美の違いは「文字」から。書家・紫舟が旅で学んだこと

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紫舟

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ひらがなは右回りで、アルファベットは左回り

文化による美の違いは「文字」から。書家・紫舟が旅で学んだこと

2018.02.13

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NHK大河ドラマ『龍馬伝』(2010年)や、同じくNHKテレビで放映中の美術番組『美の壺』(2006年〜)のタイトルなど、さまざまな場所で目にする力強く表現力に豊む墨の文字。これらを手がけたのが書家/アーティストの紫舟である。2014年にルーヴル美術館地下会場で行われた『フランス国民美術協会展』や2015年の『ミラノ国際博覧会』では金賞受賞し、海外でも積極的に作品を発表し、書の概念を新たにする表現に挑戦しつづけてきた。
 
旅のなかで受けるインスピレーションは、彼女の作品づくりにどのように活かされているのだろうか? パリでの個展を終えて日本に戻ってきたばかりの紫舟に、話を聞いた。
 
文:島貫泰介 写真:中村ナリコ

「パリの空の色は、グレーや紫がかっていて、本当に印象派の絵画みたい」

OnTrip JAL編集部(以下、JAL):紫舟さんは、個展のために世界中を旅しているそうですね。

 

紫舟:最近は、フランス・パリで発表する機会が多いですね。ちょうど3週間前にも個展のために行ってきました。

 

JAL:日本から遠く離れた土地へ旅をすると、多くの発見がありそうです。

 

紫舟:そうですね。たとえば日本の空はとても青くてきれいですが、パリの空の色は、グレーや紫がかり、本当に印象派の絵画のようです。お店の壁にも、緑や紫といった色が上手に用いられ「ああ、フランスの芸術家たちは、こういう色を日々当たり前のように見たり感じたりしながら創作をして暮らしているんだな」と、行くたびに気づかされます。

紫舟氏

紫舟氏

 

JAL:色彩にも注目して旅をされているんですね。

 

紫舟:それともう一つ、個人的に旅のミッションにしていることがあります。

 

JAL:ミッション? どんなことですか?

 

紫舟:旅先の国で活動しているアーティストの作品を買って帰ることです。子どものころ、母親たちと「好きなアーティストは誰?」という話をしたことがありました。みんなはゴッホやセザンヌを挙げるなか、私も「ロートレックが好き!」と答えたのですが、母は「同じ時代を生きている人に、もっと関心を持ったほうがいいよ」と大切なことに気づかせてくれました。
 
私もアーティストとして国内外で活動するなかで、同時代の人に評価してほしいと考えています。だからこそ、私自身が100年以上も前に亡くなった作家にだけアンテナを張っていては、見落としてしまうものがたくさんあると思います。いまの時代を生きる、成長過程にいる人たちを意識して見つめることができるように、そのミッションをつくりました。

 

JAL:アーティストならではの視点から生まれたミッションなんですね。

 

紫舟:知らない国を旅するときは、有名な観光地を巡るだけになってしまいがちですよね。ですが、いま生きているアーティストの作品に出会おうというアンテナを持つことで、ギャラリーが立ち並ぶ小さな路地に入っていく理由ができる。そうすることで、観光をするだけでは見られないような地元の風景に出会える。旅の道中で、その街に暮らしているかのような素敵な気分になれます。何より、生きているアーティストの作品を買って大切にしていくことは、その国に対する最大のリスペクトになると信じています。

 

JAL:これまでにどんな作品を買いましたか?

 

紫舟:なぜか立体が多いですね。シンガポールでは鯉をかたどった樹脂製の巨大な作品、オーストラリアでは、露天店市のようなところで鉄の羽根がついた豚のオブジェを買いました。普段紙と墨に向き合っているので、空間的なもの、カラフルなものに惹かれるのかもしれません。

ヨーロッパ圏での見え方を意識して生まれた「書の立体作品」とは

JAL:紫舟さんの作品には、平面的な書の作品だけではなく、文字要素を分解して立体的に配置した、空間を意識した作品も多いですね。

 

『書のキュビズム「流水の香」』(2017)

『書のキュビズム「流水の香」』(2017)

紫舟:今回パリで発表した『書のキュビズム』はまさにそうですね。透明な円筒形の空間のなかに文字を浮かせて、360度、上からも後ろからも見られるようになっている作品です。書のなかにある筆圧の強弱を可視化するための表現方法で、強いところは奥に見えて、軽いところは手前に見えるようにしています。私は2006年ころから、文字を鉄製の立体にした作品を複数発表しているのですが、その進化版といえますね。

『寂』(2007)。鉄の立体となった書が、影をつくり空間に浮かび上がる

『寂』(2007)。鉄の立体となった書が、影をつくり空間に浮かび上がる

 

JAL:そのように、既存の書の表現から飛躍した作品を数多く発表していらっしゃるのはなぜなのでしょうか?

 

紫舟:大きな理由は、ヨーロッパ圏の人たちの目にも「見える」つくり方を意識した結果だと思っています。

日本と西洋の美意識が違うのは、使っている「文字」が違うから

JAL:「『見える』つくり方」というのは興味深い表現ですね。

 

紫舟:絵画でも映画でも、何かを鑑賞するときの目の動きは、それぞれの国で使われている文字の影響によるところが大きいと思っています。たとえばひらがなの「の」や「ま」はすべて右回りに書かれますが、アルファベットの「a」や「c」は左回りですよね。

 

JAL:たしかにいわれてみれば!

 

紫舟:このような無意識の動きが、文字を書くときだけでなく、暮らしのなかに定着していると思います。たとえばワイングラスも日本人の多くは右に回しますが、ヨーロッパの人は逆になります。それは、子どものころから何億回もくり返し書いてきた文字に起因する癖のようなもの。ですから、日本人が右回りの向きで描いた絵に、西洋の人たちは違和感を持ちます。無意識のうちに日本的表現をしているので、西洋の人の見方では絵が「見えなく」なってしまうのです。

 

JAL:書籍の場合も、日本のものは右から左に向かって、縦書きで文字が印刷されていますが、西洋は左から右に向かう横書きですね。自国のものに慣れてしまっているから、それと違うものが頭に入ってこないのかもしれません。

 

紫舟:まだ彼らが詳しくない日本の文化や習慣を、そのまま伝えても良さを理解してもらえない、と思い、私は彼らにとって理解しやすい「左回り」も作品に取り入れています。そしてそのなかに少し、日本の右回りの動きを入れておく。そうすることで、彼らは見えるようになり、「日本っぽさ」も感じてもらえる。このようなことを、西洋の方が日本文化を理解するための手がかりやきっかけにしています。

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