車いすラグビー日本代表池崎大輔選手が語る“壁を乗り越えずに”進む旅の魅力

INTERVIEW

池崎 大輔

車いすラグビー日本代表

  • 海外

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車いすラグビー日本代表池崎大輔選手が語る“壁を乗り越えずに”進む旅の魅力

2019.09.17

2016年、リオデジャネイロパラリンピックでカナダを破り銅メダルを獲得、2018年に行われた世界選手権決勝では初優勝を飾り、個人としても最優秀選手に選ばれた車いすラグビーの池崎大輔選手。

6歳のときに手足の筋力が徐々に低下するシャルコー・マリー・トゥース病という難病を発症しましたが、障がいをものともせず高校時代から15年間車いすバスケットボール選手として活躍。しかし、腕の筋力が低下したことで車いすラグビー選手に転向しました。

車いすラグビーは、車いす競技で唯一のフルコンタクトスポーツです。スピード感あふれる展開、車いすが激しくぶつかりあう太く、重い音、転倒に継ぐ転倒……手に汗にぎる迫力はこの競技ならでは。10月16日〜20日まで日本で開催される「車いすラグビーワールドチャレンジ2019」を控えた池崎選手に、この競技にかける思いと、闘志の源にある旅の喜びについて聞きました。

車いすが激しくぶつかり、悩みがふっとんだ

OnTrip JAL編集部(以下、JAL):車いすラグビーは、ラグビーからイメージされる競技とはずいぶん違いますね。基本ルールを教えてください。

池崎大輔(以下、池崎):車いすラグビーは体育館のバスケットコートを使い、男女混合4人対4人で行う競技です。ボールは、バレーボールをもとに開発された専用球を使用します。大きな特徴は、車いす競技のなかで唯一のフルコンタクトスポーツであること。思い切りぶつかって相手を倒してもいい。そこがラグビーとの共通点ですね。

1977年、重度の障がいがある人にもスポーツの機会を作ろうという考えのもとカナダで考案されたのですが、「なぜ重度の障がいがある人がこんなに激しい競技を?」と疑問に思われるかもしれません。僕が思うに、重度の障がいがあってもこんなに激しい競技ができる、自分たちは強く生きているんだ、というメッセージが込められているのではないでしょうか。

車いす競技で唯一のフルコンタクトスポーツの車いすラグビー。選手の激しいぶつかり合いは観戦の見どころです。

車いす競技で唯一のフルコンタクトスポーツの車いすラグビー。選手の激しいぶつかり合いは観戦の見どころです。

選手には、身体の使える機能によって0.5~3.5まで7段階のポイントがつけられていて、コートに入る4人の合計が8点までと定められています。僕は3点。仮に3点の選手が2人出ると、あとの2点は、0.5と1.5の選手か、1点と1点。いずれにしても障がいの重い人を入れないとなりません。重い人は活躍の機会が少ないかというとそういうことはなく、体を張ってブロックして、チームメイトを通すための道を作るプレーがあってこそ得点につながる。障がいの重い人も軽い人もコートで自分を表現できる競技だと感じます。

JAL:競技用の車いすを見ると傷がたくさん付いていて、その激しさがよくわかります。やはり見どころ、醍醐味は、このぶつかり合う迫力でしょうか。

池崎:そうですね。ラグ車(車いすラグビー用の車いす)の傷、へこみは戦ってきた証しです。ラグ車には、ディフェンス用とオフェンス用があります。ディフェンスは頭を使って相手をブロックするなどします。オフェンスは装甲車のような車いすで素早く切り込んでいきます。

僕の場合、握力が弱いので滑り止めのついたグローブで漕ぎやすくしたり、ブレーキの代わりにひじのサポーターでタイヤを止めたり、他の選手もそれぞれの障がいに応じて車いすをコントロールできるように工夫しています。

激しい競技なので試合中は車いすのトラブルも多々あり、ベンチにいるメカニックなどスタッフの力も欠かせません。タックルされて転倒したら起こしてくれる、パンクしたら直してくれる。先日もスポークが折れてしまったのですが、1分足らずで取り替えてくれました。修理に時間がかかると試合の流れが悪くなることがあるので、そうしたプロフェッショナルなスタッフとの連携もこの競技の見どころのひとつだと思います。

相手が向かってきても、倒れても、すぐに起き上がって前に進む。これって障がい者・健常者に関係なく人生の歩み方だと思うんですよ。僕自身、選手としてだけでなく人としても競技を通して強くしてもらっています。そういった意味でも見ごたえのある競技です。

JAL:池崎選手は車いすバスケットボールから車いすラグビーに転向されたそうですね。最初は怖くありませんでしたか。

池崎:高校在学中から15年ほど車いすバスケをしていたのですが、腕の筋力が低下したため競技を続けることができなくなってしまいました。そこで出会ったのが車いすラグビー。バスケはぶつかるとファールになるので、最初ラグ車に乗ったときはやはり怖くて思いっきり当たってはいけませんでした。でも軽くコツンコツンと当たることから始めて、だんだんスピードを上げ、ドンと当たったときに「気持ちいいな」と思ったんです(笑)。そのときに抱えていた悩みがふっとんで、「自分の性格や障がいに合っている競技は車いすラグビーだ、世界に挑戦しよう」とすぐに決意をしました。

最初に当たった「ドン」という音は、僕にとってゴングです。そこから車いすラグビーの人生が始まりました。車いすラグビーをもっとたくさんの人に伝えて、同じように障がいのある方がパラスポーツを人生の選択肢のひとつとして捉えててもらえるようになれば、と思っています。

“世界一の日本”以上のチームを作りたい

JAL:池崎選手はチームの中でどんなキャラクターですか?

池崎:メガネのヒゲというキャラクターだと思います(笑)。というのは冗談で、なんですかね……自分で言うのも変ですが、一歩引かれる存在じゃないですか。競技中はいい意味で熱くなってしまうので、近寄りがたかったり話かけづらかったりすると思うんですが、終わったときはふざけて冗談ばかり言っているので、オンとオフの差が激しいと思われているかもしれません。

プレー中真剣な表情の池崎選手

プレー中真剣な表情の池崎選手

たとえ遠回りしてもその経験が生きるはず

JAL:ではこれから旅について少しお話伺いたいと思います。まず、遠征にはどれくらいの頻度で行くのでしょうか?

池崎:昨年10月から今年3月までは多かったですね。アメリカリーグ参戦のため、フェニックス、サンディエゴ、ラスベガスと日本を3〜4往復しました。国内では、2年前までは年間80〜90回ほど北海道と各地を往復。今は東京に拠点を移したのでそこまでは乗っていませんが、時期によっては1週間に3回ほど飛び回ることもあります。

JAL:機内ではどのように過ごしていますか?

池崎:国内線でも国際線でも、ブランケットをかぶって音楽を聴いたりドラマを観たり、どこでも眠れるタイプなのでいつも快適に過ごしています。

乗客の方や機長さんから「応援しています」と言っていただくこともあって嬉しいですね。空港に車いすラグビーやパラスポーツのポスターが貼ってあると知名度アップにつながるのでありがたい。もっと貼ってほしいです。

JAL:海外の場合、時差は気になりませんか。

池崎:時差の影響はひどいです。完全に夜と昼が逆転してしまって、眠らないで試合に出場したこともあります。1週間くらいの滞在だと、徹夜しないと試合に合わせられないんです。丸一日試合をして帰ってきて疲れてすぐ寝てしまい、また夜中に起きて眠れない……の繰り返し。体力的にキツいですけど、それも旅の出来事のひとつ。楽しくはないけど、こうして時差をネタに話せているので、それはそれでいいかなと考えるようにしています。

JAL:試合、プライベートを含めさまざまなところに行ったと思いますが、旅は好きですか。

池崎:旅行は好きです。時間があればあちこち行きたいですね。ずっと忙しくしていると、お湯みたいに沸騰し続けて最終的に自分がなくなってしまうような気がして、一回冷ましたいときがあるんです。そういうときに1日2日ほど競技から離れて、どこかに行ってリフレッシュしたい。

人混みは行くと疲れてしまうので、自然の中に行きたい。たとえばハワイや沖縄。きれいな海、きれいな夕日、白い砂浜、グラスにはコーラ、そこでひたすらボケーッとしていたいですね。

森でもいいですよ。緑や温泉が好き。北海道だったら登別温泉(登別市)がおすすめです。露天風呂に入りながらビールが飲める宿があるんです。僕はお酒は飲まないけど、そこはお湯もいいんです。

JAL:これまで行った国や地域で特に気に入っているところはどこですか。

池崎:パワースポットとして有名な、アメリカ・アリゾナ州のセドナです。日本からは直行便がないため、まずロサンゼルスかサンフランシスコで乗り換えてフェニックス空港に行き、そこから2時間くらいジープで岩を乗り越えながら行きました。

セドナはずっと行きたかったんです。大地に寝っ転がってパワーを感じたおかげで、そのシーズン(2018年)は全米選手権優勝、MVPもいただいて、今年も全米選手権優勝、MVPを獲得しました。こういう顔をしていますけどそういう力は意外と信じているんですよ(笑)。

池崎選手おすすめスポットのセドナは古くからネイティブ・アメリカンの人々が聖地として神聖視し、さまざまな儀式が行われてきた聖地です。

池崎選手おすすめスポットのセドナは古くからネイティブ・アメリカンの人々が聖地として神聖視し、さまざまな儀式が行われてきた聖地です。

JAL:私も行ってみたいです(笑)ジープに乗って岩を越えて……となるとあまりバリアフリーではない旅のようですが、バリアフリーの事前情報収集はしていますか?

池崎:自然のなかにバリアフリーなんてないですよ。バリアフリーを考えたら行きたいところに行けないから考えません。障がいの重さや状況によって視点が違うので一概に言えませんが、僕の場合は比較的障がいが軽いのでそこまで事前に下調べしたり計画したりすることはないですね。

行った先で何か問題あれば、どうすれば解決できるのか、誰かに頼るのか、諦めるのか、そこで考えます。それは障がい者も健常者も関係ないと思う。本当にやりたいことであれば、乗り越えられない壁はないと思うんです。ただ僕たちの場合は健常者よりも壁が多いというだけ。乗り越えられなければ穴を掘ってくぐればいいし、遠回りして向こうに行ってもいい。

乗り越える力を持つことも大事ですけど、その人に合った進む方法は他にもいろいろあると思う。人生も旅みたいなもの。遠回りすればその経験の分、対応する力もつくし、ちょっとしたトラブルは後になってみれば思い出や笑いに変わるだろうし。そう考えて歩んでいけばいいんじゃないかな。

JAL:また車いすラグビーの話に戻るのですが、「車いすラグビーワールドチャレンジ2019」「東京パラリンピック」と大きな大会を控え、日本代表のエースとしてプレッシャーはありますか?

池崎:プレッシャーはゼロということはないですよ。日の丸ですから。なによりも大きなプレッシャーだと思います。でも、プレッシャーは決してマイナスではなく、それだけ期待されている、応援してくれているというプラスの意味もありますから、それに応えたいという思いがあります。

2016年リオパラリンピックで銅メダル、2018年世界選手権で優勝となれば、次は東京パラリンピックで金メダルを獲るしかない。期待に応える以上のプレーを見せるにはどうすればいいか、“世界選手権チャンピオンの日本チーム”を超えるチームをどうつくればいいのか、いい悩みでもあります。中途半端はできません。常にチーム一丸となって命をかけてコートで戦っています。

JAL:10月には「車いすラグビーワールドチャレンジ2019」が開催されます。見どころを教えてください。

池崎:上位から8カ国(日本、オーストラリア、アメリカ、イギリス、フランス、カナダ、ニュージーランド、ブラジル)が一堂に会して日本で大きな大会を行うのは初めて。どの国もレベルが上がってきているので、格下だから格上だからということは関係なく、勝敗は戦ってみないとわからないところがあります。力を出しきって自分たちのスタイルで勝ちにいくためにも、常に挑戦者でいなければならないと考えています。試合を見に来てくださるみなさんには、日本チームを応援するだけでなく、いろいろな国の試合も応援してほしいですね。

JAL:「車いすラグビーワールドチャレンジ2019」は池崎選手にとってどんな意味を持つ大会となりますか。

池崎:2020年の前哨戦という位置づけに近い大会という意味もありますし、日本での開催ということで多くの方に車いすラグビーの魅力、パラスポーツの魅力を伝えることができるいい機会でもあります。僕は、車いすラグビーがもっとみなさんのところに当たり前に届くような競技になってほしいんです。わかりやすくいうと野球のように、テレビで頻繁に放映していて試合を開催したら何千人、何万人が応援してくれるような、多くの人たちと一緒につくっていくようなスポーツにしたいですね。

JAL:車いすラグビーにおいて、今後の展望、夢を教えてください。

池崎:「パラスポーツのクラブハウスがほしい」という夢があります。特に車いすラグビーは床に傷や松脂の汚れがつくので、使用できる体育館が少ないんです。クラブハウスがあれば、そういうことを気にせず練習や合宿ができます。

そして、競技を通して障がいのある小さな子どもたちにも希望を与えていきたい。そのためにもメダルが必要。メダリストの言葉は重みや説得力がありますから。自分たちのためだけでなく、応援してくれた人たちへの恩返しや子どもたちのために、世界一になりたい。ただ、それはゴールではなくあくまで通過点。これからのパラスポーツの発展のために、歴史に名を刻むことが必要だと思っています。

故郷の北海道をぜひ訪れてほしい

JAL:2019年、2020年、日本はホスト国として大きい国際大会を控えており、海外からもたくさんの方々が日本を訪れます。海外の方にぜひ行ってほしいと思う日本のおすすめ旅行地はありますか?

池崎:故郷の北海道です。自然と食という点で北海道にはたくさんの魅力が集まっています。季節でいえば、特に秋は美味しいものがたくさん。今年の車いすラグビーワールドチャレンジ2019、あるいは2020年の東京パラリンピックを観戦したあと、ぜひ北海道に訪れて魅力をたっぷりと感じていただきたいですね。北海道に限らず、大都会の東京、大阪にも文化的な魅力が凝縮されると思いますし、大会に来ていただく方には、建物、食べ物、人など日本の魅力をたくさん感じていただきたいと思います。

JAL:JALグループは、誰もが旅・スポーツ・文化が楽しめる社会の実現を目指しています。旅に出ることに不安を持っている方、スポーツにチャレンジしたいけど、迷いのある方に向けてメッセージをお願いします。

池崎:障がいがあってもなくても、旅に対して不安を持ってしまう気持ちはわかります。さまざまな不安があると思いますが、それも含めて旅と捉えれば、旅がしやすくなるのではないでしょうか。何か困ったことが起きても、それを対処した経験は後できっと生きると思います。

スポーツについては、一歩を踏み出す勇気は自分ひとりだとなかなか持てないので、自分の夢や目標を周りのたくさんの人に伝えたほうがいい。伝えることによって周りの人は応援してくれるだろうし、応援されることによって前に進む勇気が出てくる。一歩踏み出せば、二歩三歩、進み出せるし、そのまま進み続けないとならない環境にだんだんなってきます。そういう環境を自分でつくることで、自信がついて、めざすところに近づいていくと思う。

あきらめたらそこで終わり。その先はありません。うまく行かなくても、あきらめない強い気持ちを持って続けることが大切だと思います。これはすべて僕自身が実際に体験して感じたこと。「応援するよ」という一言が力となり、夢に向かって努力を続けています。

池崎大輔 (いけざき だいすけ)

1978年産まれ。北海道出身。2008年、車いすラグビーに転向。2009年、北海道Big Dippers入団。
※現在の所属チームは、TOKYO SUNS。2010年4月、車いすラグビー日本代表に選出され、数々の国際大会でベストプレーヤー賞を受賞。2016年リオパラリンピックでは、エースとして日本代表チームをけん引し、銅メダルを獲得。2018年の世界選手権でも初優勝の原動力となり、同大会MVPを獲得した。

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