2019年9月1日、JALの新型機・Airbus A350がいよいよ羽田―福岡間で運航を始めます。実は、このプロジェクトがスタートしたのは7年前。航空会社が新型機の導入にこれだけの時間を掛けることはほとんどありません。JALの新たなフラッグシップであるA350導入の舞台裏を、部署の垣根を越えて集まったプロジェクトチームの仕事とともに振り返ります。

【JAL最新機AIRBUS A350導入の舞台裏 vol.2】「こだわったのは“日本の伝統美”。全く新たな室内空間を目指した開発ストーリー」の記事はこちら

「これまでのやり方ではいけない」。Airbus社を候補にした理由

「私がこの部署に配属されたのは機材選定が完了したタイミングでしたので、先輩方から聞いている話を紹介させていただきます。まず、プロジェクトのはじまりは2012年ごろです。2019年頃に就航20年を迎え始める主力機・ボーイング777に替わる機体を選ぼうとスタートしました。当社は機齢20年くらいを機材更新の目安としているため、更新を検討する必要がありました。通常よりも早期に検討を始めたのは、早く決めるほど、私たちが欲しいタイミングで受領できると思ったからです。また早期に検討を開始したおかげでボーイング社とAirbus社、両社の機材を丁寧に比較することができました」(経営企画本部 経営戦略部 機材グループ 横田 敦)

画像: 経営企画本部 経営戦略部 機材グループ 横田 敦

経営企画本部 経営戦略部 機材グループ 横田 敦

大型機の世界シェアを占めるのは主にボーイング社とAirbus社ですが、これまでJALが採用してきた機体はほぼボーイング社のものでした。今回Airbus社を候補に入れたのには、ひとつの理由があったのです。

「私たちは一度経営破綻を迎えて、これまでのやり方ではいけないという思いがありました。ゼロに立ち戻って、お客さまのことを考えて、本当にいいものを選んでいこうと考えたのです。そこで組織の垣根を越えて導入準備室を作り、チームで臨みました。メンバー全員が納得したうえで、社内のコンセンサスを取っていったのです」(横田)

経済性、先進性、タイミングなどを踏まえてA350を選択

「私はクラス構成や席数に加え、機内の仕様やデザインを決める担当なのですが、選定当時は技術部にいました。私たちのこれまでの知識や経験では、当初Airbusの設計思想を理解するのが大変でしたが、彼らの熱意あるプレゼンテーションに心を動かされました」(商品・サービス企画本部 開発部 空港サービス・客室仕様グループ 大久保隆弘)

画像: 商品・サービス企画本部 開発部 空港サービス・客室仕様グループ 大久保隆弘

商品・サービス企画本部 開発部 空港サービス・客室仕様グループ 大久保隆弘

大手航空会社が採用する飛行機は、実はほとんどオリジナルで内装を仕上げます。メーカーが用意するサンプルはありますが、自分たちで作り上げる“飛行機像”のイメージをしっかり固め、実現可能かを検証したうえで購入の判断をする必要があります。

「機体選定にあたって、A350を選んだらこれくらいの席数で、当社の基準に従って、ギャレー(厨房準備室)やラバトリー(化粧室)の配置はこうなる……ということも考えながらの作業でした。選んだ一番の決め手は経済性と先進性、タイミングなどですが、どんな座席配列ができるかも大きい理由でした」(大久保)

機体の仕様選定から整備まで、Airbus社との二人三脚

かくしてA350の導入を決めたのは、2013年のことです。

「最終的には弊社の社長・植木(2013年時点)が決めました。私たちの思いに、Airbus社のトップが熱意で応えてくれたのです」(大久保)

画像: 機体の仕様選定から整備まで、Airbus社との二人三脚

「新機材を導入すると、運航乗務員や整備士方々の新しい訓練が必要となります。その手間も含めて経済性を検証した結果、A350を選択する結果となりました。また、Airbus社の方々の熱意を感じられたこともA350を選択する決断に至った理由の一つでした。今後長い付き合いになりますから」(横田)

飛行機の導入にあたっては、納入前はもちろん、納入後もメーカーと航空会社の二人三脚での取り組みが大切なのです。日々のメンテナンスにとどまらず、改善点を見つけて改良を加えるなど、共同作業の内容は多岐にわたります。

ガラケーからスマホに変わったときのようなインパクトのある機体

A350はあくまで、従来の飛行機が進化した姿であり、“まったく未知の機体”というわけではありません。それでも「ガラケーからスマホに変わったよう」なインパクトがあります。

「私はフライトコントロールや油圧、着陸装置といった部分が専門ですが、A350はボーイング社の機体と違い、操縦桿ではなくサイドスティックで操縦します。またシステムの健全性モニターなどのアビオニクスと呼ばれる電子系統も、斬新な点が多い機体だと感じています」(技術部 システム技術室 Airbusグループ 平松昌人)

画像: 技術部 システム技術室 Airbusグループ 平松昌人

技術部 システム技術室 Airbusグループ 平松昌人

そして、A350は世界初フライトから4年が経っており、品質は非常に安定しています。他の飛行機もそうですが、運用開始後の品質維持・向上は我々整備部門と製造メーカーであるAirbus社との協力が不可欠なのです。

「Airbus社とは2011年まで運用していたA300-600以来のつきあいとなりますが、まさに人と人との想いが飛行機の信頼性をつくります。これまでの知識と経験を活かしながら、いかに『世界一信頼性の高いA350にできるか』が腕の見せどころです」(平松)

日本に降り立った、待望の新型機

そして、A350が日本に初めて降り立ったのは2019年6月のことです。感慨はひとしおだったとメンバーは一様に振り返ります。

画像: 日本に降り立った、待望の新型機

「4月に工場で初めて実機を見ましたが、機内を見たときに、素直にかっこいいと思いました。フランスのトゥールーズで受領したのですが、日本好きのAirbus社チームに見せてあげたいと思い、日本へのフライトには着物で同乗しました。羽田に着いて大勢の社員に迎え入れられたときに、この6年頑張ってきてよかったという思いが込み上げてきました」(大久保)

「私もトゥールーズに行きたかったのですが、留守番でした(笑)。でも羽田で初号機を迎え入れたときの拍手喝采を目の当たりにし、新しいJALが始まるように感じられ、気持ちを新たにしました」(横田)

佳境を迎える準備作業。国内線運用は世界初の試み

「ようこそ!新しい時代の新しい翼」という横断幕を掲げて迎え入れた新しい機体は、約3カ月の調整を経て、いよいよ日本の空に向けて飛び立ちます。就航を目前に控え、準備作業は大詰めを迎えています。A350を国際線ではなく、日本の国内線のような短距離便で運航するのは世界でもJALが初めてです。

「国際線の長距離運用が前提の飛行機なので、短いスパンで安定して飛ばすにはどうすればいいかも、技術者として工夫が必要です。例えば、着陸から次の離陸までの短い時間でブレーキを冷やすため、ブレーキファンを搭載しました。操縦系統でもフラップの作動回数なども格段に多くなります。我々の世界は壊れていないことが当たり前ですので、過去の経験を活かしつつ、様々な状況を想定しながら機材品質を維持するために全力を尽くしたいと考えています」(平松)

画像: 佳境を迎える準備作業。国内線運用は世界初の試み

「A350ではすべての座席に個人用画面を備え、IFE(インフライトエンターテインメント)も新たに開発しました。現在はその運用に向けて準備を進めています。新システムを初めて使うので、問題がないか、お客さまの使い勝手はどうかと微調整を進めています」(商品・サービス企画本部 開発部 客室サービスグループ 松澤オレリアン雅樹)

画像: 商品・サービス企画本部 開発部 客室サービスグループ 松澤オレリアン雅樹

商品・サービス企画本部 開発部 客室サービスグループ 松澤オレリアン雅樹

お客さまの安全と満足度を損なわないために、裏方として何ができるのかをすべてシミュレーションしておくことも、新型機を送り出す大切な仕事のひとつです。A350で目指すのは、世界一の信頼性です。そして快適性にも妥協はありません。

日本一の国内線の次は、世界一の国際線を目指して

さらに4年後の2023年には、国際線での運航がスタートします。実はその準備も佳境に差し掛かりつつあります。

「国際線にとっても20年~30年に一度訪れるフラッグシップ機の入れ替えです。国内線でこれだけ充実した仕様にしてしまったので、さらにそれを超える国際線はどういった姿であるべきか……ハードルは高いですね(笑)。でもJALだからこそ、どんなことができるのかを考えています。現在のJAL国際線は、スカイスイート(一部路線除く)と名付けていますが、このブランドに代わる新しいコンセプトを目指して、国内線以上の素晴らしいものにします」(横田)

画像: 日本一の国内線の次は、世界一の国際線を目指して

妥協せず、できることをすべて盛り込んだA350は、JALが自信をもって送り出す機体です。国内線では、かつてない快適な空の旅をお楽しみいただけます。そして新たな国際線仕様は、より上質な体験が期待できそうです。彼らのミッションは、まだまだ始まったばかりです。新型機にかける情熱は冷めそうにありません。

JALの舞台裏

A350導入の裏話や機内食のメニュー開発など、JALの仕事の舞台裏を紹介します。

掲載の内容は記事公開時点のもので、変更される場合があります。

This article is a sponsored article by
''.